2020/07/25 05:52

ミュージシャンにとってCDは、名刺のようなもの。CDで自分の音楽性や技量、ジェケットでどんな音楽家か伝えられます。


今回は、2015年にテノールのラファエル・ファーヴルと一緒に制作した「フランツ・シューベルト歌曲」について、CD制作の過程、関わって一緒に従事してくれたアーティスト、技術者の話、予算の話をしたいと思います。

ミュージシャンにとって響きの良い場所を選ぶのと、良い楽器を選ぶのがまず始めです。そして予算に合う会場であるか(払える会場であるか)、というのが最も重要になってきます。当時のSARU music の拠点だったサルネン市には、元修道院の高等学校に付属であった教会だったところが、壁に共鳴版を設置していて、大変心地の良い響きの場所があります。ベーゼンドルファーのグランドピアノが入っています。この素晴らしい音響とベーゼンドルファーの相性は、すごくよくて、シューベルトの歌曲にぴったりでした。

この会場はいつも埋まっている欠点がありますが、夏休み中は、あいているとのことで、夏休み中、1週間を借りました。
ヨーロッパなのでエアコンもなく、調律してから、太陽が窓から入ってきて、楽器に照りつかさないか心配でしたが、いけました。

ルドルフ・ベックは、オーディオ技術をSAE ニューヨークで学び、CMや映画音楽にも音楽を提供していたレコーディング・エンジニアで、私と一緒に仕事をするようになって、クラシックの歌とピアノのための録音を研究してきました。数年前から歌手方々からデモCDを依頼していただき、その際に、いろんなマイクをテストしていました。真の声を撮れるドイツ製のマイクをはじめ一流のマイクに投資ししました。
超一流アーティストが使うマイクをそろえたあとは、マイクの設置、技術者の腕にかかります。



録音日を、月曜から金曜までとり、第1日目は、マイクの位置テストのみにかけました。

第2日目から、芸術監督として、歌手、声楽教員であり著名な合唱指揮者のアンドレ・グロテンに加わってもらいました。
演奏者は、演奏のみに100パーセントの力を注ぎます。どこが悪かったかとか、発音がまずかった、イントネーションが、悪かったとか、アートュキレーションが聞こえないとか、雑音とか録音技師と音楽監督全てに委ねて、把握してもらい、どのテイクをとるか判断してもらいます。特に歌の場合は、本気で何度も歌える回数が限られるため、10曲以上あるプログラムでは、スタミナ配分が大切です。



ファーヴルと私が選んだシューベルトの歌曲は、テーマを「愛」「夜」「憧れ」にして、11曲を選びました。
始めは、ややこしくない曲を選び、朝には、低音の多い曲などをレコーディングの順番を考えます。どうしても満足のいかなかったものは、次の日にも持ちこんだ曲もありましたが、ほぼ予定通りいけました。

「冬の夕べ」という曲は、7分弱かかるのですが、実はこの曲は、二人とも魔術がかかったように、1テイクでとりました。この時のエピソードは、テストテイクで音楽監督が、もっと内面的にするためデュナーミックを、抑えてみたらと提案してもらいました。本番第一テイクでとりきりました。雰囲気がぴったりでした。



最終日には、名ホルニスト、ルーカス・クリスティナートさんをお迎えして、「流れの上で」をとりました。彼の音楽は、大好きで、流れや、柔らかい音色が最高です。一緒に共演できるのをとても楽しみにしていました。
クリスティナートさんは、素晴らしい音楽家なので、アンサンブルが卓越していて、ファーヴルもこの難曲を歌うのを大きな喜びをもってうたっていました。


録音は、ハードでしたが、音楽だけに力を注げた1週間で、幸せそのもでした。



さてとった音源のテイクを選んだり、もしくは、テイクのいい所の箇所を繋いだりする作業があります。
ルドルフ・ベックは、スイス人の精密な性格をもっていて、針一本でも妥協をゆるさず、カットして繋ぐ作業をしていきます。グロテン芸術監督が選んでくれたテイクでも、私たちには、音楽的に気に入らなかったものは、変更したりしながら、まず第一セットを作ります。
そしてファーヴル、私が、この選んだテイクが自然に繋がっていくか、かなり批判的な耳で確認します。
ここでぼんやりミスを聞き逃していては、あとで、ミックスしてもらうときに、物凄い面倒なことになります。お金もかかってしまうので、
真剣勝負です。
これでテイクのセットが決定します。

次にいろんなマイクを使っているため、マイクのバランスや、高音低音中音のバランス、声、ピアノそれぞれ決定していきます。この作業をミックスといいます。

私たちのミックスをしてくれたのは、技師師のトニー・ランツさん。クラシック・レコーディングのエキスパートの技術師で、スイスラジオにも従事されています。トニーさんには、こちらのサウンドのイメージを伝えます。バランスはこうだとか、響き方とか。それを技術で置き換えてくれるのが彼の腕です。この時に、こちらが、ちょっとでも曖昧だと混乱させてしまうので、聞いてイエス、ノーをはっきり自分の耳で判断しなくてはいけません。まず声だけを調整し、次にピアノ、そして空間の響き方を決めていきます。
そして1曲づつ、決めた調整が、正しいか確認していきます。集中して聞くというのは、すごい大変なことです。疲れてくると、わけがわからなくなるので、1回1回が勝負です。トニーさんの腕はいいので、私の要望に答えてくださるけど、1時間の料金も二万円弱かかります。1曲ずつきいていくと、調整していくところがでてきたり、うける印象がはっきりしていきます。その受けた印象を頼りにサウンドを確定していきます。

ミックスの第1セッションの後、時間をおいて、いろんなスピーカーできいてみます。それで全部気に入ったらいいのですが、不満がでてきます。私たちの場合、ピアノがハンマークラビーアのように、薄い音になってしまっていて、歌との相性はよかったのですが、そこを良くしなくてはいけませんでした。

そして第2セッション。ピアノのミックスを変えたら、声にも作用してしまいます。そうこうして、最後には、2つの確定バージョンを作ってもらい、どちらかに決定しました。後は、トニーさんが、マスターリングしてくれます。

CDジャケットについて。

夏のレコーディングが終わって、秋休みに写真撮影の時間をとりました。ラファエル・ファーヴルの知っているフランスとの国境で、昔の水車の後がある場所で写真撮影をすることにしました。
服装は、自分たちで決定。ジャケットにしようとファーヴルが提案。彼は、紺のジャケットをもっているとあったので、私はベージュをもっていきました。カメラマンは、夫です。

ブックレットについて。
専門家が楽曲について書いてあるのが、多いですが、私が好感をもてるのは、アーティストが何を考えて(意図して)録音作品をつくったかというの文章があるものです。私の日本人的考えから、ドイツ語の論理に沿って文を書いてもらうよう、文章書きの専門家バスカル・グミュールさんに頼みました。
ドイツ語件以外にもこのCDを広めたかったので、英語の訳、タイトルから文章、プロフィールもアリソン・クランさんに頼みました。

そしてデザインは、才能のあるグラフィック・デザイナーのサンドラ・ガベラネスさんにお願いしました。
文章を読みやすくしてもらったり、写真の修正や、補講など、やってもらいました。彼女の仕事は、センスがよくてとても気に入っています。



そして印刷会社へ。実はCDをプレスしてくれる会社は、外国に印刷を依頼し(コストが減るから)、1000枚刷って500枚捨てるというので割引でやっていました。自然破壊になるこのやり方には、ふにおちないので、コストが高くなってもいいから地元の印刷会社で、ブックレットやインレイを別にオーダーして、必要な枚数だけ刷ってもらいました。

それでやっと出来上がったのがこのCDです。



どうぞお聞きください!!
(文、加藤哲子_)